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福岡高等裁判所宮崎支部 昭和29年(ネ)92号 判決

主文

原判決を左の如く変更する

被控訴人と控訴人とを離婚する

控訴人は被控訴人に対し金五万円を支払へ

被控訴人の其の余の請求は之を棄却する

訴訟費用は第一、二審共之を三分し其の一を被控訴人の負担とし其の余を控訴人の負担とする

事実

控訴人は原判決を取消す被控訴人の請求を棄却する訴訟費用は第一、二審共被控訴人の負担とするとの判決を求め被控訴代理人は控訴棄却の判決を求めた。

当事者双方主張の事実関係並証拠の提出認否援用は当審に於て控訴人が乙第一乃至第八号証を提出し証人山口義雄恒吉豊牧健一郎の各訊問を求め被控訴代理人が乙第一乃至第八号証の成立を認めた外原判決事実摘示と同一だから之を茲に引用する。

理由

被控訴人(大正十五年二月十九日生)と控訴人(大正六年七月十八日生)とは昭和十八年三月十日婚姻し其の間に昭和十九年四月十六日長男健一郎を儲けてゐる夫婦である事実は乙第一号証戸籍謄本に依り明白である。

乙第七、第八号証と原審証人小野兼利間東熊山崎利光当審証人山口義雄恒吉豊の各証言とを綜合し尚原審当事者訊問に於ける被控訴人の陳述を参酌して考ふるときは控訴人は昭和二十年八月末頃復員した者であるが復員後は家業を捨てて顧みず父新九郎から屡意見されても一向に改むる模様もなく其の為家庭内の風波絶ゆることなく其の上控訴人には盗癖があつて昭和二十二年十二月中夜半二時頃電線を窃取せんとして電柱によぢ登り墜落して負傷し其の為第十二胸椎第一腰椎圧迫骨折及圧迫性脊髄炎二級の身体障害者となり爾来性交不能に陥り現在尚身体障害者であるのみならず昭和二十三年八月中には其の事なかりしに拘らず被控訴人が訴外山崎利光と姦通した旨の虚構の事実を流布した斯様な関係から被控訴人は同年同月末控訴人との婚姻を持続しがたいとして実家に復帰した事実を肯認し得べく右認定に牴触する原審証人岩永三之助内山甚次郎当審証人山口義雄恒吉豊の各証言部分は当裁判所の信用しないところで其の他には右認定を左右するに足る証拠は存在しないから叙上認定の事実は婚姻を継続し難い重大な事由に該当するものと謂ふに妨げなかるべくしかのみならず前掲被控訴人に有利な証拠と乙第二号証戸籍謄本とに徴すれば被控訴人が前示の如く昭和二十三年八月末頃実家に復帰した後昭和二十四年七月二十四日頃控訴人の父新九郎が控訴人の署名捺印ある協議離婚届を持参し被控訴人の署名捺印を求めたので被控訴人は勿論控訴人も承諾の上と信じ之に署名捺印し離婚届がなされたので昭和二十六年中訴外外山辰夫と事実上婚姻し同人と同棲し其の間に昭和二十六年十月三十一日長男孝一郎を儲けたので同年十一月十五日に至り正式婚姻し次で昭和二十九年九月五日長女恵子を挙げたが是より先控訴人から前掲離婚届出は控訴人の意思に基くものでないとの理由で被控訴人を相手方として離婚届出無効確認並同居請求訴訟が又被控訴人及訴外外山辰夫を相手方として婚姻取消慰藉料請求訴訟が提起せられ居り孰れも控訴人勝訴の判決が確定した為前示離婚並婚姻は取消され戸籍面だけは被控訴人が控訴人の妻として復帰したけれども被控訴人は依然訴外外山辰夫と同棲し事実上円満な夫婦生活を営んでゐる事実が認めらるるから旁以て本件当事者の婚姻は継続し難い重大な事由あるものと謂はなければならない尤も控訴人が主張するやうな離婚届出無効及婚姻取消の確定判決の存することは前示の通りであるけれど本訴とは全く別個の訴訟であるから被控訴人が本訴請求をなすに付何等の妨げとなるものではない従て被控訴人の本訴離婚の請求の認容せらるべきは勿論である。

進んで被控訴人主張の慰藉料額に付案ずるに前掲証拠に依れば被控訴人は初婚であり高等小学校卒業後有徳裁縫学校で一年制の和裁の修習をなした者であり其の実家は農業を営み部落では中以上の生活をなし居り控訴人は松田農場で修練したことがあり其の実家は農業で製材所や精米所も経営し之れ亦居町では中以上の生活をしてゐるけれども乙第一及乙第三号証により認め得る如く控訴人としては何等資産を有してゐないのに被控訴人との間に儲けた長男健一郎は控訴人が養育してゐる事実が認め得らるると前段認定の事実関係特に控訴人が身体障害者であることを彼是斟酌して考ふるときは控訴人が被控訴人に対し支払ふべき慰藉料は金五万円を以て必要にして十分であると認定すべきである。

仍て控訴人の本件控訴は一部理由があるから原判決は之を変更すべきものと認め訴訟費用の負担に付民事訴訟法第九十六条第八十九条第九十二条を適用し主文の如く判決する。(昭和三〇年八月一〇日福岡高等裁判所宮崎支部)

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